東京春音楽祭２０１９　東京春祭マラソン・コンサート vol.9ーー宮廷の時代――5つの”響き”

東京春音楽祭２０１９　東京春祭マラソン・コンサート vol.9ーー宮廷の時代――5つの”響き”
～ヨーロッパの芸術と宮廷の歴史をひも解く（日本・オーストリア国交樹立150年記念）
2019年４月６日（土）１１時開演、東京文化会館小ホール
ーー　第ⅰ部　祝祭の響き　　（１１時開演）
【曲目】　①ヘンデル（レイサム編）：組曲「王宮の花火の音楽」hwv351より序曲、
②ラモー（デュカス編）：オペラバレ「優雅なインドの国々」よりロンド、
③Ｊ．ブル（バントック編）：王の狩、
④Ｊ．シュトラウスⅡ（シェーンベルク編）：皇帝円舞曲、
⑤グルック（モーエン編）：過激「オルフェオとエウリディーチェ」（ウィーン版）より第三幕フィナーレ
【出演】　ヴァイオリン：横溝耕一①④、倉冨亮太①④、ヴィオラ：佐々木亮①④、チェロ：宮坂拡志①④、
フルート：梶川真歩④、クラリネット：伊藤圭④、
ソプラノ：三井清夏②⑤、鵜木絵里⑤、アルト：小泉詠子⑤、二期会合唱団②⑤（ソプラノ・田崎美香、アルト：喜田美紀、テノール：園山正孝、バリトン：寺西一真）、
ピアノ：朴令鈴②⑤、三輪郁③④、
企画構成・お話：小宮正安(ヨーロッパ文化史研究家/横浜国立大学大学院都市イノベーション学府教授)
◆祝祭は、宮廷の栄華と繁栄を象徴する存在でした。祝典曲からオペラに至るまで、宮廷ならではの「非日常性」を湛えた音楽の数々を取り上げ、宮廷祝祭の諸相を探ります。
ーー第Ⅱ部　楽興の響き　　（１３時開演）
【曲目】　①モルター：クラリネット協奏曲第三番ト長調より第一楽章、
②カルダーラ：「むくいられし気品」より「だまれ！苦しみよ！」、
③フリードリヒⅱ世（ヴァルダーゼー編）フルートソナタ第二番ハ短調、
④マリー＝アントワネット（ヴェッケルラン編）：「私の大切な人」、
⑤J.S.バッハ(レーガー編)：ブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調BWV1050
【出演】　ヴァイオリン：ライナー・キュッヒル⑤、白井篤①⑤、倉冨亮太①、猶井悠樹②、横島礼理②、ヴィオラ：中村洋乃理①⑤、
チェロ：西山健一①、市寛也②⑤、コントラバス：吉田秀⑤、フルート：甲斐雅之③⑤、クラリネット：伊藤圭①、
ソプラノ：鵜木絵里②、三井清夏④、ピアノ：三輪郁③⑤、僕令鈴④、お話：小宮正安
◆君主にとって音楽は、自身の権勢を示すための象徴のみならず、自ら参加して楽しむ対象でした。宮廷に繰り広げられた楽興の時を振り返ります。
ーー第Ⅲ部　祈願の響き　　（１５時開演）
【曲目】　①ラインハルト：トランペットソナタ、
②レオポルトⅠ世：「天の女王よ」、
③サリエリ：「イエスの母君」、
④l.モーツアルト：「汝はまことの人、まことの神」、
⑤w.a.モーツァルト：モテット《踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ》（ザルツブルク版） K.165
【出演】　ヴァイオリン：猶井悠樹①②③④⑤、横島礼理①③④⑤、倉冨亮太②、ヴィオラ：中村翔太郎②③④⑤、中村洋乃理②、
チェロ：市寛也①④⑤、コントラバス：吉田秀③④⑤、フルート：甲斐雅之⑤、梶川真歩⑤、トランペット：菊本和昭①、
ホルン：今井仁志④⑤、石山直城④⑤、ソプラノ：三井清夏③、鵜木絵里④⑤、アルト：小泉詠子②③、オルガン：大木麻理①②③④⑤、
お話：小宮正安
◆宮廷には礼拝が付きものであり、そこでは宮廷の繁栄のために神の加護が注がれることが祈られました。音楽を通じた、宮廷と宗教の関係を再考します。
ーー第Ⅳ部　賛美の響き　　（１７時開演）
【曲目】　①チャイコフスキー（作曲者編）：デンマーク国歌に基づく祝典序曲　op.15、
②パガニーニ：「神よ王を守り給え」に基づく変奏曲 op.9、
③リスト：「アンリ４世万歳！」s.239、
④ガヴェッティ：王室行進曲、
⑤チェルニー：ハイドンの「神よ、皇帝フランツを守り給え」に基づく変奏曲 op.73
【出演】　ヴァイオリン：二村英仁②、ライナー・キュッヒル⑤、横溝耕一⑤、ヴィオラ：佐々木亮⑤、チェロ：宮坂拡志⑤、
ピアノ：三輪郁①、山田武彦①③④⑤、お話：小宮正安
◆宮廷の君主に対する賛美の歌は、その国の国歌として広まるといった具合に、多様な形で親しまれました。様々な形に編まれた賛美の響きを聴きます。
ーー第Ⅴ部　支援の響き　　（１９時開演）
【曲目】　①ベートーヴェン（フンメル編）：交響曲第1番 op.21より第一楽章、
②ヴィヴァルディ：ヴァイオリン協奏曲集「ラ・チェトラ」より協奏曲第一番ハ長調rv.181a、
③リュリ（デルデヴェス編）：歌劇「アルセスト」よりガボットとロンド、
④f.j.ハイドン（ヴィラニツキー編）：オラトリオ「天地創造」Hob.xxiー２より導入部「混沌の描写」、
⑤スヴィーテン：交響曲
【出演】　ヴァイオリン：ライナー・キュッヒル①②③⑤、白井篤①④⑤、猶井悠樹②、横島礼理②、横溝耕一④、
ヴィオラ：中村翔太郎②④、中村洋乃理④、佐々木亮⑤、チェロ：宮坂拡志①、西山健一④⑤、市寛也②⑤、
オーボエ：青山聖樹⑤、坪池泉美⑤、フルート：梶川真歩①、ホルン：今井仁志⑤、石山直城⑤、ピアノ：山田武彦①、三輪郁③、
お話：小宮正安
◆宮廷やそれに関係する人々の支援を受け、ヨーロッパの文化は長年にわたる大きな繁栄を遂げました。文化支援という流れの中に生まれた音楽の数々を味わいます。
【全五部を通しての感想】
明日の「さまよえるオランダ人」を友人の勧めで聴くことにして、せっかく上京するのだからと探して、このマラソンコンサートも聴くことになった。
東京春音楽祭は初体験であるが、毎年３月後半から４月前半に上野界隈で開かれているようだ。ちょうど桜が満開で、上野公園はたいへんな人出でにぎわっていた。
午前１１時から午後８時まで、各部１時間、休憩１時間を挟んで五部まであり、総計９時間、まさに「マラソンコンサート」である。
この企画を構成した小宮正安が楽曲とその時代背景についてわかりやすく解説して進行し、各部５曲づつで、きっちり１時間で終わるので、
メリハリも変化もあって、長時間ではあったが、飽きることも、疲れることもなく楽しめた。
弦楽四重奏を基本として、そこに曲ごとに必要な楽器や歌手を加除しての室内楽の演奏会である。
出演者は豪華で、私が名前を知っている人では、ウィーンフィルの前コンサートマスターのライナー・キュッヒルや、N響主席クラリネット奏者の伊藤圭などがおり、他の出演者の演奏水準もきわめて高い。
百年前の１９１８年にオーストリアのハプスブルク家をはじめとして、ヨーロッパの宮廷が第一次世界大戦、ロシア革命を経てほぼ終わったが、
西洋音楽を考えると功罪を含めて、宮廷が与えた影響は決定的に大きく、その「文化支援者」としての宮廷の意味を、西洋史、音楽史の中で考察するアカデミックな探究の試みでもあった。
「祝祭」「楽興」「祈願」「賛美」「支援」の五つの響きを各部のテーマとして、バロックから現代まで、多彩な音楽を堪能することができた。
皇帝円舞曲などよく知られた曲もあったが、カルダーラの「むくいられし気品」などは、おそらく日本初演であろうということで、
最新の研究によって発見された楽譜を用いての演奏、珍しい編曲によるものなど、なかなか他では聴けないものを体験することもできた。
休憩時に会館の外に出ると、柔らかな陽光の中に、暖かな春の風がそっと頬をなで、かすかに桜の匂いもするような気がして、気分も爽快であった。席はｌ２３。

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